「ずっと、そういうものだと、思いこんでいた。」
彼女は、そう呟いたが、私は、聞こえないふりをした。
彼女のためにも、これ以上、
深い関係になるのは、避けたかったからだ。
その男と出会ったのは、今から3年前。
彼女が16歳。彼氏が、30歳の時だった。
彼女にとって、初めての男。
大人の彼氏がいる事自体、自慢だったし、
自分よりも、はるかに知識が豊富で、会話も面白い。
一緒に居ると、周りの同級生が、とても、子供に見えた。
そして、どんどん、夢中になっていった。
だが、付き合って半年ほどたった頃から、男は急変していく。
「他の男と、話してはいけない。」
「今日1日、起きたことを、メールで報告する。」
「制服以外、スカートを、穿いてはいけない。」
周囲からみれば、異常な束縛も、
彼女にとっては、それが、愛に思えた。
それほど、若かったし、無知だった。
その男以外、比べるものが、何もなかったのだ。
どこにも出掛けず、部屋にこもるのが、デートだと思っていた。
男は命令するもので、女は従うものだと、思い込んでいた。
そんな日々が、3年、続いていた。
彼女にとって、初めての、浮気だった。
一人街ゆく、美しい彼女を見て、
私は、迷わず、声を掛けた。
最初は、凄く緊張していたが、
徐々に笑顔が増え、そして、紅潮していった。
カフェに移動してから間もなく、彼氏の話題になると、
堰を切ったように、色んな話をしてくれた。
サインが揃うまで、時間は、掛からなかった。
「彼以外と、こういうこと、初めてなの」
女性から、よく出てくる定番のセリフも、
彼女のそれが真実なのは、肩と声の震えで、明らかだった。
私は、いつもより優しく手を引き、ホテルに入った。
私に出会うまで、彼女はずっと、
人を好きになることは、我慢する事だと、信じていた。
だから、人を好きになることは、自分を好きになる事だと、教えた。
私と寝るまで、彼女はずっと、
あの行為は、痛いものだと思っていた。
だから、涙が出るほど、気持ちがいいものだと、教えた。
あの日、彼女に声をかけなければ、
彼女は、いつまで、檻の中に、入っていたのだろうか?
もしかすると、そのまま、腐っていたのかも、しれない。
あの日、彼女に声をかけたからこそ、
私の中に、素晴らしい思い出と、充実感が、また1つ増えた。
ナンパ=悪だと、断言する人もいるが、
時に、お互いの人生を、良い方向に、変える事もある。
私が望まない限り、もう二度と、彼女と会う事はないだろう。
だが二度と、彼女の記憶から、私が消える事も、ないだろう。
自分の人生を、豊かにするのも、
美しい女性の、人生を、豊かにするのも、
全ては、あなたの、行動次第だ。
あなた次第で、明日は、もっと輝く。
昨日よりも、今日、今日よりも、明日。
日々何も変わらない、コピーの様な人生だけは、歩んではいけない。
ありがとうございました。
岡田尚也
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